朴性厚監督作『バレット/バレット』は見るべき？アニメファンが注目すべきポイント5選

心がざわめく夜に、ふと目にしたアニメのワンシーンが、忘れられない記憶になることがあります。

『バレット/バレット』は、そんな“心の芯に突き刺さる瞬間”が静かに燃えている作品です。

『呪術廻戦』で鮮烈な演出を刻んだ朴性厚監督が、10年温め続けた完全オリジナル──。今回は、アニメファンとしてぜひ知っておきたい5つの見どころを、感情の温度で紐解いていきます。

『バレット/バレット』監督・朴性厚の“熱”に触れる

『呪術廻戦』から続く演出の進化と深化

朴性厚──この名を聞いてすぐに『呪術廻戦』を思い浮かべた方は、きっと彼の演出に心を打たれた記憶があるはずです。特に第一期のバトルシーンで見せた“躍動感と構図の妙”は、いまやアニメ表現の新たなスタンダードにもなりつつあります。

その彼が今回、自らの企画原案で手がける完全オリジナル作品。それが『バレット/バレット』です。

「オリジナルだからこそ、どこまでも自由に、でもどこまでも責任を持って作る」。そんな気概が画面の端々から滲んでいます。

10年越しの構想が今、解き放たれる理由

構想は10年前──『呪術廻戦』以前から練られていたという本作。荒廃した近未来、バレット＝車を駆って駆け抜ける人々の物語。

この「車に乗って弾丸のように疾走する」という設定だけでも十分ユニークですが、そこに乗せる“人の想い”がまたリアルで。朴監督はこの世界を、アニメという枠の中で本気で描き切ろうとしています。

軽やかで、痛くて、どこか哀しい。けれどその分、鮮烈に突き刺さる。そんな作品です。

“ご機嫌アニメ”に込めた、監督の真意とは

朴監督が本作を語るとき、しばしば「ご機嫌アニメ」という言葉を使います。それは派手なアクションやユニークなキャラに溢れた、いわば“気軽に楽しめる作品”であるという意味合い。

けれど、それは決して“浅い”ということではありません。むしろ“ご機嫌”という言葉の裏に、現代における“気持ちの余白”の大切さ──すなわち、心を揺らす余地を残しておくことへのこだわりが感じられます。

笑ってもいいし、泣いてもいい。ただ「こんなアニメもあるんだ」と感じてくれれば──。それが、この作品に込められたやさしさなのかもしれません。

『バレット/バレット』の魅力①：荒野を駆けるカースタントの詩

三沢伸の3D演出が描く、疾走と衝突の美学

アニメにおける“カースタント”と聞いて、あなたは何を思い浮かべますか？　現実の迫力には敵わない──そう感じてしまう人も多いかもしれません。

けれど『バレット/バレット』は違います。カースタント監督・三沢伸が手掛ける3D演出は、ただのリアル追求ではなく、“アニメだからこそ描ける動き”を研ぎ澄ましたもの。

風を切るタイヤの軌道、衝突時に跳ね上がる火花、そしてその瞬間にキャラの感情が揺れる──。視覚の情報が、そのまま心を震わせてくるのです。

アニメだからこそ可能な“車×感情”の表現

『バレット/バレット』では、車は単なる移動手段ではありません。Gearたちは“車に乗ること”でしか自分を表現できない、そんな不器用さを抱えています。

加速すればするほど、彼らの心の叫びが聞こえてくる。ブレーキを踏む瞬間、その迷いが見えてくる。

そう、これはただのカーアクションではなく、「車が感情を語るアニメ」なんです。

風を切るその先に、何があるのか

広大な荒野を、音を立てて突き抜けていく車。その行き先には、敵がいるかもしれないし、希望があるかもしれない。

でも大切なのは、“進み続けること”そのもの。

『バレット/バレット』の疾走感は、ただのスピードではありません。そこには「立ち止まらず、自分の生き方を貫こうとする人間の意志」が詰まっているのです。

そしてその意志こそが、アニメという表現に乗って、私たちの胸に届く──。それが、この作品の持つ美しさのひとつだと、私は感じています。

『バレット/バレット』の魅力②：キャラクターたちの孤独と火花

GearとShirokuma──孤独なふたりの相棒譚

物語の中心を走るのは、ふたりの男──GearとShirokuma。

Gearは生きるために走る男、Shirokumaは走る理由を忘れてしまった男。対照的なふたりが、無骨なバレットに乗り込み、何かを取り戻すように突き進む姿には、言葉にできない切なさが宿っています。

彼らが交わすのは多くのセリフではなく、アクセルの踏み方や視線の揺れ。静かな時間の中に、信頼と孤独の温度が確かに伝わってきます。

斎藤という名の殺し屋が見せる“揺らぎ”

そして忘れてはならないのが、殺し屋・斎藤。

表向きはバッティングセンターの経営者、裏では“仕留め屋”として知られる男──中村悠一さんが演じるこのキャラクターは、そのギャップの中に驚くほど繊細な“揺らぎ”を抱えています。

淡々とした口調の奥に、一度も口に出せなかった“本当の気持ち”が眠っているようで。彼の登場するたび、空気がひんやりと張り詰めるのです。

脇役に宿る生命力、世界に滲む心の輪郭

『バレット/バレット』は、脇役たちにも心を留めずにはいられません。

笑い声が少し大きすぎるロボット、奇妙な正義感を振りかざす刺客、そして無言で戦場を駆ける少女──。どのキャラも「生きている理由」を持ち、それを“自分の速度”で表現しているのです。

誰かの物語の“背景”では終わらない。それぞれの歩幅で、それぞれの火花を散らす──。それがこの作品に息づく、キャラクターの美しさなのだと私は思います。

『バレット/バレット』の魅力③：音楽が語る、言葉にならない情景

Chanminaが鳴らす“闘う心”のリズム

オープニングテーマ「Work Hard」は、ラッパー・Chanminaが本作のために書き下ろした楽曲。

これが、ただの主題歌ではありません。曲そのものが、Gearたちの“走り続ける理由”を語っているように聞こえるのです。

打ち込みの強いビート、たたみかけるようなフレーズ、そこに宿るのは、傷ついたままでも前を向こうとする“闘う心”。

「アニメのために初めて全力で作った」と語るChanminaの声は、まさに物語の第一声として胸に響きます。

Newspeakが紡ぐ“終わらない夜”の残響

対照的に、エンディングテーマ「Glass Door」は、静かで、どこか懐かしい夜を思わせる一曲。

ロックバンド・Newspeakが手掛けるこの楽曲は、荒野の喧騒を抜けたあとの、しんと静まり返る“余白”を思わせます。

疾走感の裏にある“止まることの意味”、戦いの中にある“ため息のような静寂”──。そんな心の奥を、音だけで語るような余韻が、見終わったあとも心に残ります。

堤博明×藤田亜紀子──音と声の余韻に浸る

音楽を担当する堤博明の劇伴もまた、物語を丁寧に包み込んでいます。

たとえば、Shirokumaがふと遠くを見るシーン。派手なメロディはいらない。ただ、一音のピアノが彼の過去に触れるように響く──そんな繊細な設計が随所に光ります。

さらに、音響監督・藤田亜紀子の手腕も絶妙です。セリフが静かに語られる瞬間、その“間”が音と重なり、感情の“揺らぎ”をよりリアルに感じさせてくれる。

音があり、沈黙があり、それでも心が震える──。『バレット/バレット』は、音楽という名の“語り”においても、抜群の表現力を持つ作品なのです。

『バレット/バレット』の魅力④：想像力が創った“荒野”という心象風景

吉松孝博×天神英貴の描く無骨と繊細

『バレット/バレット』の荒野は、ただの背景ではありません。それは、キャラクターたちの“心の風景”です。

キャラクターデザインを務める吉松孝博は、無骨で飾らないフォルムの中に、どこか温かみのある“人間の線”を描き出します。

そして、メカニックデザインは『マクロス』シリーズで知られる天神英貴。彼が描くバレット（車体）は、重量感とスピード感を両立しながら、どこか「魂を宿している」ような存在感があります。

このふたりが創る世界は、ただ派手なだけではなく、“生きている”ことを静かに証明してくれるような場所なのです。

金田一士が支える物語の呼吸

シリーズ構成・脚本は金田一士。彼は『ウマ娘 シンデレラグレイ』の脚本も手がけた実力派。

本作では、緻密なプロットよりも「呼吸感」を大切にしているように感じられます。キャラクターが何を選び、何に迷うのか──その“間”をしっかりと描き出してくれる。

観ている私たちも、気づけばその間に“気持ちを寄せている”のです。言葉にならない違和感や、なんとなく引っかかる想い。それらが物語に沈んでいて、ふとした瞬間に浮かび上がる──。

そういう“余白のあるストーリーテリング”が、この作品を唯一無二にしている要因のひとつです。

視覚と構成が生み出す世界の厚み

ビジュアル、音、物語構成──どれか一つが際立つのではなく、それぞれが“重なり合う”ことで『バレット/バレット』の世界は形作られています。

その積み重ねが、荒野という虚無のような空間に、“確かな感情”を芽生えさせている。

人が生きる理由が曖昧な世界で、それでもなお走る者たちの姿──その背景が、この世界の“厚み”を何よりも物語っているのです。

『バレット/バレット』の魅力⑤：“観る”と“体験する”をつなぐフォーマット

全12話を2章構成で描く“完結へのカウントダウン”

『バレット/バレット』は、全12話を第1部（#1～#8）、第2部（#9～#12）の二部構成で展開するスタイル。

この構成が見事なのは、物語が“走りながら終わりに向かっていく”感覚を視聴者に与えてくれる点です。

第1部で描かれるのは、「走り出す理由」。第2部では、その走りの“意味”が問われていく──。

一話ずつ観るたびに、確実にゴールが近づいているというカウントダウン的な緊張感が、作品の密度をより濃くしているのです。

Disney+と劇場、2つの体験が物語に重なりを与える

本作は、Disney+（スター）で独占配信されることが決定しています。

第1部（#1〜#8）は7月16日（水）から一挙配信、そして第2部（#9〜#12）は8月13日（水）

さらに、劇場では前編「弾丸疾走編」（7/25～）、後編「弾丸決戦編」（8/15～）と、スクリーンでの没入体験も用意されています。